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[2021.09.13]

遠野ふるさと村
~昔懐かしい異郷のマヨイガ~



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美しい日本の原風景が残る遠野郷(岩手県遠野市)において、“隠れ里”のような異界に迷い込めるのが「遠野ふるさと村」だ。


隠れ里とは、民話や伝承で語り継がれる仙郷や理想郷のような場所で、深山幽谷にあると考えられた。
ケースによって様々だが、大体の隠れ里は平和で豊かな社会を形成し、偶然迷い込んだ者は歓待され一時的に滞在した後、 もう一度訪ねようと思っても、二度と辿り着けないとされる。


これらは山中他界観に基づくものだが、昔話の『浦島太郎』『鼠浄土(おむすびころりん)』などにも共通点が見受けられる。
また、全国各地には、平家の落人が逃げ延びた隠れ里だと伝えられる集落が実在する。


遠野ふるさと村は、早池峰山に至る山岳地帯に位置する。
緑豊かな広大な敷地内に、遠野の昔ながらの山里を再現した体験型の自然施設である。


施設の入口に当たるビジターセンター「風樹舎」だけはモダンな建物(※2)で、遠野の自然史ライブラリーの他、レストランや売店が併設されている。

※2:2017年の訪問時は、正面扉前に新婚のツバメの巣があり、 手厚く保護されている様子にほっこりさせられた。


各地の隠れ里伝承を研究した民俗学者・柳田國男の『遠野物語』によると、遠野の山奥には「マヨイガ(迷い家)」と呼ばれる不思議な家(長者屋敷)があり、 偶然訪れた者に富をもたらすという。


「マヨヒガ」ともいい、『遠野物語』の「六三」では、三浦家の妻の成功譚として次のように語られている。
道に迷った貧しい女が谷の奥深くに入り、立派な黒い門の家を発見して中に入るが、人の姿が見えないので怖くなり逃げ出した。
すると後日、女は小川の上流から流れてきた美しい赤いお椀を見つける。


そして、そのお椀を使ったところ、穀物をいくら使っても減らなかった為、やがて貧しかった女の家は村一番の金持ちになったという。
どうやらこの山中の幻の家は、内部の物を持ち帰って良い事になっているが、女が無欲だった為、後追いで幸運が訪れたようだ(※3)。

※3:一方、続く「六四」では対象的に、長者になろうと欲をかいた若者が、結果的に何も得られない失敗譚となっている。


そうした伝承をイメージした「マヨイガの森」を抜けた先がメインのエリアだ。




田畑や小川に囲まれるように、曲り家や直家、土蔵、水車小屋などが集落を成し、恐いくらい長閑な景色が広がっている。
江戸時代の農村風景が再現されているようだ。


茅葺屋根のL字型古民家である曲り家は、まさにマヨイガそのもの。




正式名は「南部曲り家」で、江戸時代中期~明治時代に建てられた。


時代劇のセットさながらだが、遠野市内にあった計6棟の家をそのまま移築したらしく、色々な作品の撮影で使用されているという。


各家には遠野の伝統と文化を守る「まぶりっと衆」の老人が常駐し、お茶とともに昔話が聞けたり、農村生活が体験可能。




まぶりっと=守り人の意味。
訪問時は優しそうな老婆に桜茶を振舞っていただき、色々と遠野のお話を伺う事が出来た。
普段は家の手入れや畑で農作業なども行っているようで、まさに村人そのものといった印象だ。


また、伝統行事「雨風祭」で使われる、高さ3mの藁人形が磔のように展示されており、股間の大きさともども驚かされる。


雨風祭は虫送りと同様、農作物を守る為に催される厄除け行事だ。
台風が襲来する時期の二百十日前(9月初旬頃)に、等身大の藁人形を男女2体作り、「二百十日風雨祀」と書いた旗を掲げ、 太鼓や鐘を叩きながら「二百十日風雨まつるよ、おおきたの果てまで送るよ」と唱えながら、村境まで運んで人形を納めるという内容。


ただ現在は藁人形を省略し、旗だけを村境に掲げる場合もあるようだ。


さらに村はずれには、奇妙な小屋があり・・・








しあわせカッパ像と金精様、藁人形、恵比寿像などの土着信仰が詰め合わされた、民俗学ボックスのような状態が見逃せない。


村内では毎年、どぶろくを飲みながら神楽やカッパおじさんのトークを楽しむ「どべっこ祭り」や、 年齢性別制限なしの「座敷わらし&河童仮装コンテスト」など、遠野らしいイベントも行われているようだ。







外界とは異なる刻がゆったり流れる、素朴で不思議な隠れ里である。



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