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[2024.02.29]

天狗之庭
~霊峰・加波山の奇妙な廃宗教施設~



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茨城県桜川市と石岡市の境に位置する加波山(かばさん)は、古くより山岳信仰が伝わる筑波連山の1つで、 “天狗の山”としても知られる修験道の霊場である。
標高709mの山中には、複数の神社や小祠、奇岩などが点在する他、謎の宗教施設の廃墟が取り残されており、 ミステリースポットの様相を呈しているのだ。


加波山の山頂には、加波山大権現と総称される、3つの加波山神社=本宮・中宮・親宮の本殿が鎮座し、 それぞれ中腹には拝殿、麓には里宮もある。


まず最初に訪れたのは、本宮に当たる「加波山三枝祇神社」の里宮。


社伝では、日本武尊による創建とされ、イザナミや雷神などの祭神が、 五穀豊穣、鎮火、疫病除けの神として崇められている。


拝殿正面の左右には、赤い鼻高天狗と青い烏天狗のオブジェがあり、バディ感を漂わせていた。


少々ややこしい話だが、本宮・中宮・親宮は信仰が共通するにもかかわらず、運営が個々に異なる独立した存在であったようだ。
本宮と親宮は元々、宮寺一体の2つの寺院で、修験者が呪術や加持祈禱を行っていたが、明治時代の神仏分離によって神社化。
その後、大正時代から親宮は本宮の管理下となり、里宮も1つにまとめられた。


拝殿に隣接する神輿殿の前は、ちょっとした魔除けコーナーとなっていた。


続いて、本宮・親宮の里宮から200m余り離れた「加波山普明神社」へ。


元々は中宮の里宮だった場所で、2004年に新しい拝殿が出来た事に伴い、現在の名称になったようだ。


こちらの拝殿にも天狗のオブジェが。


江戸時代の国学者・平田篤胤は、著書『仙境異聞』において、 「岩間山に十三天狗・筑波山に三十六天狗・加波山に四十八天狗」がいると記している。
この地の天狗は、「KBS48」とでも言うべき大所帯のようだ。


祭神は明治時代に活躍し、「日本最後の仙人」と呼ばれた国安普明。
解説によると、 普明仙人は全国で修行し、幽界の眷属を使って仕事をしながら民衆を助け、明治天皇の相談役として国の繁栄に尽力したとの事。
また拝殿には、日本で唯一、“天狗の頭の骨”が御神体として祀られているようだが、残念ながら撮影禁止だった。


普明神社の隣りには、先述の新拝殿である「真壁拝殿」が鎮座している。
中宮の里宮で、村内安全や嵐除けなどの信仰を集め、 イザナギとイザナミの他、加波山山中の737神を祭っている。これまた、えらい大所帯だ。


今までの社殿とは打って変わって、なんとも豪華な佇まいである。
木材もまだ真新しく、朱色も色鮮やかに見える。


神前に近付くと、龍や虎、天女などの彫刻が柱部分にゴテッと施されていた。


また、やはりあった天狗面は、他とは一線を画すメタリック仕様であった。
どうでもいいが、扁額の文字が右→左に読むタイプなので、 一瞬「社神・山波加」という名前(山好きの愛称的なもの)かと思った。


「そもそも私と加波山神社との縁しは~」という、一人称で始まる建立由来の碑文。
内容の大半は、5億円もの費用を投じてこの拝殿を建てた、 宗教法人・箱根大天狗山神社の開祖(当時80歳)の修行人生について記されている。
「信者と書いて儲けると読む」という言葉を思い出す羽振りの良さだ(天狗だけに)。


ちなみに、この真壁町は昔、葉タバコを栽培する農家が多数あったそうで、 豊作を祈願する「たばこ神社」が加波山の山頂に鎮座している。
毎年9月には収穫に感謝し、中腹の拝殿から男達が“巨大な煙管(きせる)”を担いで山頂まで登るという、 奇祭「きせる祭り」が執り行われている。
長さ2.6mの真鍮製煙管は、なんとなく天狗の鼻を彷彿とさせる。


昨今、当神社の社名を不正に使い参拝者を惑わす神社が有りますので注意して下さい

どうやら、「加波山神社」の称号を巡り、先程の本宮と対立関係にあるようだ。
山頂まで巨大煙管を運ぶレースか何かで、その勝敗を決めたら良いと思う。


近くにある採石場から時折響く、 「パーン!」という発破音に若干怯みつつ、加波山の三合目まで細い坂道を進む。
すると、登山口前の分岐地点・桜坊で、鬱蒼とした草木に紛れる建物が出現。


今回のメインディッシュ、通称「天狗之庭」と呼ばれる廃宗教施設である。
1987年に、箱根大天狗山神社が茨城支部として建築したとされる、正式名「大天狗神社」の成れの果てだ。


しかし、周囲は高いフェンスに囲まれ、入口は有刺鉄線とつる草に覆われた鉄門で、固く閉ざされていた。


門の隙間から覗いた内部の様子はこんな感じ。
グラウンドのような広場を中心に、いくつかの建物が散漫に建っている。


入口の近くには、東屋とガラスケースのような建物があった。


東屋の外壁には、祭神の名前(文字数が多い)がズラッと並ぶ他、 「聖なる愛之花園」「天狗之庭」「極天之花園」などと記されていた。
情報量はそれなりにあるが、何を目的とした場所なのかが全く伝わって来ない。


さらに、東屋の上をよく見ると、祭神と思しき観音像の姿が。
まるで見張り台のようである。


手前のガラスケース内には、KBS48(加波山四十八天狗)の中でも大物とされる、天中坊大天狗の像が屹立している。
近付けない為、ちょうど顔が隠れるアングルでしか撮影出来なかったが、鼻高天狗のようであった。


少し奥のガラスケース内にあるのは、同じく大物とされる岩切大権現の像。


火焔を背負って白狐に乗る姿で、飯綱権現系の烏天狗のようだ。
先程の石碑によると、箱根大天狗山神社の開祖は、長年山々を渡り歩いた末に加波山を訪れ、この天狗の祠で修行を終えたという。


すっかり錆び付いているが、四隅には照明塔もある。
現役時代はソーラーシステムで稼働していたとか、いないとか。


敷地の端の方にも横長の東屋が。
大勢で集まる儀式でも行われたのか、観覧席のような場所だったようだ。


一番奥の方には、八角堂や鳥居(稲荷神社)らしきものが見受けられるが、 だいぶ緑に浸食され、全容は把握出来ない状態であった。
敷地内には竈や浴室も備わっていたようなので、信者らが疲れを癒す休憩所の要素も兼ねていたのかもしれない。


古くは神母山(かんばやま)、あるいは神場山、神庭山とも呼ばれた霊峰・加波山。
かつての盛況は無くなったが、今も各地から禅定(修行の為の登山)を行いに来る信者がいるという。 発破音に混じり、天狗の笑い声が聞こえるような気がした――。


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