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[2020.12.20]

『荒俣宏の妖怪伏魔殿2020』見学レポート



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※本記事は『荒俣宏の妖怪伏魔殿2020』の展示写真を多数掲載している為、 会期中に見学予定の方はネタバレにご注意ください。


2020年11月、埼玉県所沢市に「ところざわサクラタウン」がグランドオープンし、 何も無いと揶揄されがちな同県の“逆襲”を象徴する存在(かもしれない)として、大きな注目を浴びている。


ところざわサクラタウンは、 アニメや漫画などのクールジャパンの新たな発信拠点として造られた、KADOKAWA×所沢市による共同プロジェクトの大型複合施設である。


そして、この敷地内に巨大モニュメントの如く聳える不思議な多面体の建物が、同時オープンとなった「角川武蔵野ミュージアム」だ。



広々としたエントランスの正面には、コロナ禍の今年を象徴するような『疫病退散アマビエ之図』が掲げられていた。


さらに扉付近には黄金のウルトラマンブッダ像が並んでいた。


光の巨人もここまで来たかという煌めきっぷり。
彼らの背後の階段を降りると、1階(体感的には地下)のグランドギャラリーに辿り着く。


同地では現在、オープニング企画展『荒俣宏の妖怪伏魔殿2020』が開催中(2020年11月6日~2021年2月28日)。
日本各地に潜む見える妖怪から誰も見た事がない妖怪まで紹介され、 妖怪研究の第一人者・荒俣宏さんが監修した貴重な妖しい展示物が多数公開されている。


会場の所々には、荒俣さん本人によるコメントが書かれている。
早速「妖怪はちょっとHだよ!」という誰得な情報を入手しつつ、ネットの事前予約で発行されたQRコードをスタッフに見せて入場。
果たしてこの先にどんな妖怪ワールド(魔界)が広がっているのか・・・!?


「伏魔之殿」の門を潜ると、まずはいかにもパンデモニウムっぽい雰囲気の薄暗い回廊となっていた。


天井からは様々な妖怪語録が書かれた黒い垂れ幕が下がり、独特の異空間を形成している。


そして左右の壁には、新進気鋭のイラストレーターによる妖怪絵図が描かれている。


不気味ながらもスタイリッシュなイラストとなって、様々な妖怪の姿が障子にズラッと並ぶ。



ここではナマハゲなどの来訪神も、妖怪の一種として取り上げられていた。



回廊を抜けた先の広間には、意外にも段ボール箱が沢山置かれていた。 もしやまだ準備中なのでは?とか思いつつ中を覗くと・・・


なんと、懐かしのジェニー・ハニヴァーが!
そのエイリアン的な見た目から、かつては“海の未確認生物の死体”としてヨーロッパの船乗りなどの間で売買されたが、実際はエイの干物を加工した乾燥標本である。


さらには、ツチノコの標本まで!
日本各地で目撃されているお馴染みの妖怪的UMAで、いくつかの地域では結構な額の懸賞金がかけられ、 毎年捕獲イベントが開催されている町興し要員でもある。



こちらはカッパグッズ。
カラクリ妖怪の辻川山公園で知られる、兵庫県福崎町のマスコットキャラ「ガジロウ」にまつわるものだ。


天狗についていろいろ書いてある文書。
出版したのはなんと宮内庁書陵部だとか。



様々な珍品・奇品がカジュアルに箱詰めされ、まるで闇市のアウトレットセールか何かのようだ。 片づける時もそのまま運べて便利そうではある。


周囲の赤い壁一面には、47都道府県のご当地妖怪がイメージと説明文付きで多数紹介されている。


いきなり出オチ感が凄いアイヌの妖怪「オッケルイペ」。
その名は見たまんま“放屁する化け物”を意味し、人が家の中で1人でいる時などに姿を隠しつつ、強烈に臭い屁をこくという。
恐ろしいと言えば恐ろしい妖怪である。


もちろんアマビエを始め、今年話題をさらった予言獣の姿もある。


人面牛身の妖怪「件(くだん)」。
人+牛の姿である事から、そう名付けられた予言獣である。
雌牛から産み落とされた件は、人語で災いを予言するとされ、古くから飢饉や戦争といった大事件の前に姿を現すとされている。


先程の来訪神のイラストからも伺えたが、沖縄の泥神パーントゥなども逃さずラインナップされているあたり、 「さすがは荒俣宏」と思わせるマッド・コレクター的なチョイスである。

ちなみに以前行った奇祭パーントゥのレポが、ムー公式サイト(note)でも公開されております。



続いて待ち受けるのは、複数体の巨大な人形道祖神(実物)。
古くから秋田県の村の境界に祀られている藁製の守り神である。
荒俣先生も「あのお方たち」と呼んで一押しする、 本展最大のインパクトを放つ見所かもしれない。


「御返事(おっぺち)のカシマサマ(鹿島様)」。
祭りの日は、 この人形を担いで若い男衆が集落を練り歩き、家々の前で「フー、フー」という掛け声と共に男根を模した棒を前後左右に動かし、 悪霊祓いするという。


横からのアングルだと逞しい男根が際立つ。
道祖神は子孫繁栄の祈願も行われる為、こうしたシンボリックな造形なのだという。


約4メートルの巨大道祖神「末野のショウキサマ(鐘馗様)」。
村の外から来る悪霊(災い)を追い払う勇ましい神なので、鬼のような形相で刀や槍などの武器を携えている。
大き過ぎて大型トラックの荷台に入らなかった為、体をいくつかのパーツに分けて運んだという。


ショウキサマの足元にあるのは、船に乗せられた小さな鹿島人形。
「鹿島流し」と言って昔は川に流したそうだが、現在はショウキサマの前で燃やされている。


「山田のジンジョサマ(地蔵様)」。
男女一対で8町内(常会)に各2体ずつ、合計16体も祀られている。
祭りでは、若い男衆が担いて町内を巡行し、隣りの地区のジンジョサマに鉢合わせると、 互いの人形の男女を交わらせるようにぶつけ合うという。


「中荒沢のショウキサマ」。
普段は民俗資料交流館に常設されているものらしい。


「小掛のショウキサマ」。
杉の葉をまとった男女一対で、トラクターに乗せて町内を巡行し、祠に運ばれるという。


軽やかに宙を舞うのは、インドネシアのバリ島に伝わる悪魔祓いのオゴオゴ人形。 急にエキゾチックである。


道祖神コーナーの先には、当サイト的にもう一つの見所である「件(くだん)のミイラ」が展示されていた。
以前、関西や名古屋で行われた特別展の目玉コンテンツだったもので、この程ようやく関東まで出張してきてくれたのである。
怪異蒐集家・木原浩勝さん所有の、日本で唯一現存する剥製だ。


3体セットの「烏天狗のミイラ」。
まるで見ざる言わざる聞かざるの三猿のようだ。


「五大魔王尊」と名付けられた角のある頭蓋骨。
廃寺に祀られていたそうだが、どんな信仰や儀式に使用されたのかは謎に包まれているという。


「三頭竜のミイラ」。
見世物に出品されたものらしく、群馬県の特産物(?)と書かれていたとか。



「竜の標本」。
幻想標本作家・江本創さんの作品らしいが、とてもリアルだ。


「一つ目巨人の骸骨」・・・と見せかけて、アジアゾウの頭骨らしい。



「京極の匣」と名付けられたブース。
張り子作家・荒井良によるお面の壁が目印となっている。


中に入ると正面の格子の中に、 京極夏彦の「京極堂・百鬼夜行シリーズ」文庫版表紙を飾った妖怪の張り子作品が展示されていた。


『姑獲鳥の夏』の表紙を飾った姑獲鳥(うぶめ)。
とても和紙で出来ているとは思えないクオリティーである。


『狂骨の夢』の表紙を飾った骸骨幽霊。


『絡新婦の理』の表紙を飾った女郎蜘蛛。


『塗仏の宴 宴の始末』の表紙を飾った塗仏。


昭和の珍品コレクター・三田平凡寺の集めた幽霊画や妖怪画、春画めいたものも展示されていた。


江戸時代中期の実話に基づく妖怪譚『稲生物怪録』。
備後三次(現在の広島県三次市)の稲生武太夫(幼名・平太郎)という16歳の少年が、1ヶ月間に渡って体験した怪異を日記の如く綴った物語である。


寛延2年(1749年)、平太郎が肝試しと百物語を行うと、その後7月1日から連日、様々な妖怪によって脅かし続けられる。
ある日は大男に鷲掴みにされ、ある日は逆さの女の生首に体を舐め回され、ある日は天井に現れた巨大な老婆の顔に舐め回され、 ある日は知人の頭から赤子が這い出し、ある日は何人もの虚無僧が自宅に侵入・・・などなどの異常事態が次々に発生したが、平太郎は特に気に留めず、30日間過ごし抜いたという。


人間を脅かしにやってきた魔王・山本五郎左衛門。
裃を着た40歳くらいの武士に化けた姿で、最終日に平太郎の勇気を称えた彼は、褒美にいつでも自分を呼び出せる木槌を手渡したという。
なお、この部分は後に付け足された内容とも言われるが、広島市の國前寺には平太郎が貰った“魔王の木槌(ばけもの木槌)”が寺宝として伝わっており、 毎年1月に一般公開されている。



ギャラリーの奥には、明らかにお化け屋敷っぽい一画がある。


古民家のセットに設置された妖怪の数々。
荒俣先生が製作を務めた、2005年公開の映画『妖怪大戦争』に登場したオブジェが展示されているのだ。




暗がりで分かりづらいが、背後は普通の壁かと思いきや塗壁だった。 実際の伝承同様、神出鬼没な感じの演出である。


廊下にも何やらゴチャゴチャいて密であった。


断面図はこんな感じ。座敷には靴を脱いで上がる事も可能。


家の外の井戸端にも妖怪が蔓延っている。


なお、来る2021年には、令和版の映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』が公開予定で、その始動記者会見も先頃サクラタウンで行われた。


妖怪グッズが買える「妖怪伏魔店」。
一般には流通していない、様々なクリエイターの作品が販売中であった。





店前のショーケースの中は、人魚の標本やらゴーレム人形やら謎の生物の剥製やら、小物の展示がてんこもり。



「妖怪盂蘭盆会」という映像体験型インスタレーションの空間。
中央に置かれた白いおぼんを持って、盆踊りの如く周囲を動き回ると、そこに妖怪の姿が映し出されるという趣向である。


そして見学客はここに来て、「やはりアラマタサマ(荒俣様)こそが妖怪の親玉=魔王だったか・・・」といった気持ちにさせられるのだ。




出口付近では、河童と一つ目小僧の馴染み深い妖怪がお見送りしてくれる。


伏魔殿の最後は、「みんなの妖怪絵」コーナー。
所沢の小学生達が自由な発想で描いた、ユニークな妖怪が大量に飾られていた。
もしかしたらこのうちのどれかが、ずっと後の世に実在した妖怪の文献として語られる日が来るかもしれない。


広間中央のタッチパネルを操作する事により、プロジェクションマッピングの大画面で妖怪絵を閲覧する事が出来る。


準備中にコメントを書く荒俣先生。
展示品はタイミングによって入れ替えられるそうなので、まだ行ってない人も是非その目で確かめてみてほしい。


「荒俣宏の妖怪伏魔殿2020 YOKAI PANDEMONIUM」
会期:2020年年11月6日(金)~2021年2月28日(日)
開館時間:10:00~18:00(最終入場 17:30) 金・土曜のみ 10:00~21:00(最終入場 20:30)
休館日:火曜日(祝日は開館)
会場:角川武蔵野ミュージアム 1Fグランドギャラリー
住所:埼玉県所沢市東所沢和田 3-31-3
公式サイト:https://kadcul.com/

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