イギリス・ロンドン中心部南西の地にはですね、ウェストミンスター寺院てのがあるんですよ。
ここはですね、イギリス王室が公式行事に使うゴシック様式の教会なんですがね、例の如く霊が出るなんて話があるんですよ、ええ。
ある夜の事ですね、1人の僧が静まり返った寺院内の見回りをしていたそうなんだ。
するとね、闇の中に、何か動く気配がする。
何かなー、て目をこらして見てみたら、黒い聖職衣に身を包んだ男がいるんですよ。
どうやら、ウェストミンスター寺院で修行中の修道僧の様なんですね。
近づいてみると、その男は背が高くて痩せており、頭にすっぽりと頭巾を被っている。
でも、どう見ても見覚えのある僧じゃないんですよ。
見回りの僧が声をかけると、男はびくりと体を震わせ、低い声でこう答えたそうなんだ。
「私は、ヘンリー8世の御世に、寺院の入口付近で、盗賊に襲われ、生きながらにして皮を剥され、殺された修道僧です。まだ、修行半ばだった為、時々こうして甦ってきては、修行の続きをしているのです。」ってね。
ヘンリー8世の在位期間は、1509年~47年で、400年以上も昔の事。
そんな苦しいウソをつくなんて、さては、祭壇に飾られている宝石をあしらった聖具を盗もうとして忍び込んだ盗賊なのかもしれない、と僧は思ったんですがね、次の瞬間、彼は我が目を疑ったんですよ。
なんと黒い聖職衣の男は、ふわふわと宙に浮いた様な歩き方をしている。
それを見た僧は、スーッと血の気が引いて、その場で失神してしまったそうです。
実はね、ウェストミンスター寺院はこれまでに何回か修復を重ねてきており、床も磨り減る度に、磨きをかけて平らにしてきていたそうなんですよ。
寺院に伝わる歴史によれば、1500年代の寺院は、現在より床が2.5cm程高かったそうなんですよ。つまり、黒い聖職衣の男は、確かに1500年代の床の上を歩いていたんですね。
この話は、1932年8月30日付けの『モーニング・ポスト』誌で大きく掲載され、ロンドン中に戦慄を引き起こしたそうです。
この僧の霊は、未だに夜な夜な現れては、悲しい身の上を語るとか・・・。