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“脱ハンコ”の風潮に県知事が大反論するくらい、果物と並び印鑑の名産地である山梨県には、
それを象徴する不思議な施設が建っている。
富士山を背にした甲府盆地南側の丘の上に位置し、付近を通る中央高速のドライバーらの目を奪う、神殿のような場所である。
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当サイトではお馴染みの樹海を抜けて、甲府方面へしばらく車を走らせると・・・
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やがて、「幸せの丘ありあんす」と書かれた奇妙なゲートが現れた。
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そして同時に、「女神ルリエ」や「恋人の聖地」などと書かれた看板があり、
滲み出す宗教感と場違い感に若干の不安がよぎる。
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坂を上って辿り着いたのは、巨大なドーム状の建物。
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ここ、「幸せの丘ありあんす」は、印鑑がメインテーマの複合文化施設である。
印鑑の通信販売や観光事業などを行う、「宗家日本印相協会」が運営している。
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「ありあんす」とは、“同盟”を意味する英語「alliance」のフランス語読みらしい。
同施設の説明では“人との出会い、神との結びつき”を意味し、つまりは「縁(えん、えにし)」を指しているそうだ。
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庭には縁起が良い「鶴亀之松」が。鶴と亀の比率が妙にリアルだ。
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入口には施設全体のミニチュア模型があった。
広大な敷地の中央に、円形シェル構造の本館が建っているのが分かる。
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内部に入ると、大理石で構成されたゴージャスなエントランスが広がっていた。
果たしてフラッと訪れて良い場所なのか、再び不安を抱きつつも、
意外と安い入場料500円を受付で支払い、大義名分を得て奥へ進む。
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すると初っ端の掴みとばかりに、親子のマンモス像が出現(※1)。 唐突な光景に戸惑うばかりだが、印鑑=象牙という事で、同施設には「象牙彫刻美術館」(撮影禁止)が併設され、
シベリアで発掘された約3~5万年前の貴重なマンモスの牙なども展示されている為だ。
※1:横浜国立大学の考古学者・長谷川教授が監修し、本物そっくりに復元したもの。
高さ4.5m、長さ6m、重さ1.5tに及ぶ。
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2018年の訪問時は既に動かないようだったが、以前は100円支払うと、目と首が動いて「パオーン」と咆哮する仕様だったらしい。
アカデミックかつアミューズメントである。
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宗家日本印相協会は1972年の創業以来、山梨の地で50年に渡り、
伝統工芸の印鑑を作ってきた株式会社。そう、別に宗教団体や宗教法人ではないのだ。
昔は駅の方に記念館があったそうだが、1986年に現在地の高台に移転し、幸せの丘ありあんすになったという。
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宗家会長・深澤鰍石先生の写真。
その姿は明らかに宗教団体の教祖だし、モノクロっぽいのでかなり昔の人に見えるが、
どうやら日本の印章彫刻の第一人者であり、
写真も元々カラーだったのが、経年で退色してしまったようだ。
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日本印相協会は、様々な決断の際に使う印鑑を持ち主の“分身”と捉えている。
その為、持ち主の品格を上げるべく、ここの印鑑は全て、象牙などの上質な素材を用いて、卓越した技術の職人が手彫りで作っているという。
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また、「印相八方位」なる独自の哲理に基づく姓名鑑定によって、持ち主ごとの開運吉相を導き出し、
世界で一つだけの手彫り印鑑「開運御守護印」を生み出しているようだ。
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その印鑑の持ち主となった著名人の写真も複数飾られており、
「広告塔みたいな印象だけど大丈夫なのか?」と心配になりつつも、
長年に渡る確かな実績と信頼がある事は感じられた。
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そんな訳で、役所みたいな感じで、姓名鑑定の申込書が設置してあった。
「日本一の鑑定士が無料であなたを幸運へと導きます」の怪しさが凄い。
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こちらの円形回廊沿いの個室ブースで、開運学の権威ある先生方が相談に応じてくれるそうだ。
さながら占いの館である。
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順路に従い、施設の中央である円形ホール「鳳凰殿」へ。
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このホールの正面には、「女神ルリエ」が鎮座している。
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高さ約11mの巨大像で、心の邪念を退け、人間関係を改善させて良縁を結ぶ象徴的存在らしい。
とは言え、どう見てもご本尊であり、宗教施設っぽい雰囲気がMAXである。
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ルリエという名は、世界で最初にパワーストーンとして認められた、「ラピスラズリ」の和名「瑠璃」
から取られたようだ。
ラピスラズリは、古代ローマで「恋人達の愛と夢を護る石」とされ、その力に恵まれるように、
「瑠璃恵=ルリエ」と名付けられたという。
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2013年には「恋人の聖地サテライト」に認定され、巨大女神像に見守られながら、ホールで結婚式を挙げる事も出来るそうだ(※2)。 また、毎年10月1日の印章の日には、役目を終えた印鑑を祈祷する「印鑑大供養祭」が厳かに執り行われるという。
※2:そもそも、「ありあんす」はフランス語で“結婚指輪”という意味もあるそうなので、当然と言えば当然かもしれない。
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再び回廊に出ると、何やら小洒落たショップのような雰囲気に。
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パワーストーンや水晶、アクセサリーの販売コーナーである。
昔から水晶が沢山採れ、宝石加工が地場産業として発展した甲府は、“宝石の街”とも呼ばれている為、
ここぞとばかりにパワースポットで売っている模様(※3)。
※3:甲府の宝石と印鑑には歴史的な結び付きがあり、
研磨した宝石を卸すにあたり、元々あった印鑑の流通経路を使用したという背景もあるようだ。
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値段が156万円もする巨大水晶が、特にケースに入れられるでもなく、
野菜みたいな感じでその辺に置かれていた。
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ちなみに、当初全く買うつもりがなかった我々だが、気が付いたらパワーストーンを1個ずつ購入していた。
数百円の安物でお土産代わりとは言え、普段コレ系にあまり興味を示さない男達の心を動かしたのは、
もしかしたらルリエ様の良縁パワーによるものかもしれない。
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だが、この数時間後、帰りの高速で車が追突事故に遭い、
同行者から「何がパワーストーンだよ!役立たずが!」という暴言も飛び出した事は、正直に付け加えておこう。
しかし、考え方によっては、パワーストーンを持っていたからこそ、大したケガもせずに済んだのかもしれない。
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他にも、地元の特産品を扱ったお土産屋やレストラン、
広いスペースを持て余し気味のラウンジなどがあった。
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再びミニチュア模型が。今度は山梨全体をデフォルメしたものだった。
しれっと富士山を静岡側から全てぶん取ってる感じが笑う。
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最後に、甲府盆地を一望出来る屋上展望台へ。
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そこには、これだけでも料金を支払う価値のある、大パノラマの絶景が広がっていた。
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夜間は甲府の街が、それこそ宝石を散りばめたように煌くそうで、2018年には「日本夜景遺産」にも認定されているらしい。
いよいよ野郎ばっかで来た事が悔やまれる、カップル向けスポットとなっている。
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眼下には何故かパターゴルフコース。
プロゴルファーの中沢考次氏が設計した本格的な18ホールらしい。
わざわざ高級な印鑑を買うような人種は、ゴルフを嗜みがちという事だろうか(偏見)。
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特徴的な流線形の屋根も目の前に。
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最上部の球体には、太陽のようなマークが描かれ、やはり教団のシンボルか何かを思わせる。
しかし繰り返すが、ここは決して宗教施設ではない。
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多様性の時代、幸せの形は人それぞれ。 判で押したように誰かに決められるものではない。
だが、美しい景色を目にした時は、純粋に幸せを感じられるようでありたい・・・などとポエミーな事を一瞬頭に浮かべつつ、
この丘を後にした。
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