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未曾有のコロナ禍で他者との距離が必要になった世の中だが、
そんな逆境も屁の河童と言わんばかりに、画期的な防疫システムの駄菓子屋が誕生した。
その店の名は「まぼろし堂」。
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噂のまぼろし堂は、千葉県八千代市の田園地帯にある。
「チカン注意」の看板が“こわい道”と認定している、農道の奥の鬱蒼とした通り沿いに位置し、店名の通り実在を疑いたくなる周辺環境だ。
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実際、辿り着いた店の入口は、一見して資材置き場か何かのそれにしか見えず、
うっかり通り過ぎてしまいそうな佇まいであった。
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半信半疑で足を踏み入れると、
雑木林に抱かれた敷地内の奥に、小屋のような店が建っている。
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まぼろし堂は元々、昔ながらの駄菓子屋だった。
店主のおばあちゃんがレジに座る店内には、懐かしい駄菓子が所狭しと大量に並び、
子供から大人まで親しまれていた。
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しかし現在、建物の正面扉は封鎖され、店内に入る事は出来ない。
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店員の姿も見当たらず、訪問時は人間の代わりに猫が出迎えてくれた。
看板娘の「ごはん」ちゃんらしい(独特のネーミングセンスだ)。
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新型コロナウィルス感染防止の為、店は縮小営業中となっており、
店頭の自動販売機のみで駄菓子や飲食物の販売を行っているのだ。
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“オープンバー”を自称する、ハンバーガーとコーヒーの自販機。
最寄駅やバス停から数km離れ、何らかの足が無いとアクセスが大変な同店だが、
こうした補給を求めたバイカー達で週末は賑わうそうだ。
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特にハンバーガーのレトロ自販機は、かつてドライブインなどでよく見かけられたが、今やすっかり絶滅危惧種の貴重品。
元々製造していた会社が既に存在しない為、ハンバーガーは当時の味を再現したオリジナル品が提供されているという。
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駄菓子屋らしく、懐かしいゲームの筐体やベーゴマ台なども並んでいた。
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店前でキョロキョロしていると、急に「いらっしゃいませ!」と声を掛けられ少し驚いた。
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無人休憩所のような雰囲気だが、実は店内には店長の“やっちゃん”こと村山保子さんが待機し、監視カメラでちゃんと訪問客を見ているのだ。
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コロナ禍以降、“自粛警察”と呼ばれる人々が生まれた事は記憶に新しい。
この店も2020年4月の緊急事態宣言中、自主休業していたにも拘わらず、「営業するな」という誹謗中傷の張り紙(※1)をされ、一時は廃業を考えるほど店長は落ち込んだそうだ。
※1:正確には、赤い文字で「コドモ アツメルナ オミセ シメロ マスクノムダ」と書かれていたという。
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だがしかし、どうにか営業を続けられないかと検討した結果、ソーシャルディスタンスに配慮し、
このレトロとハイテクが組み合わさった非接触型の販売方法に進化したという。
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なお、自動販売機と前述したが、正確には“手動販売機”となっている。
よく見ると機械は手作りで、コカ・コーラ風の広告部分も同店オリジナルの表記だった。
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お金の投入口やお釣りのレバーなども絵で、
実際は手で出し入れするトレイに乗せる形で代金を支払う造り。ハイテクと見せかけてアナログである。
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主力商品は駄菓子の各種詰め合わせ。
斬新なアイディアも手伝い、
遠方からわざわざ買いに来る人も結構いるらしく、この前もなんと沖縄からの訪問客がいたとか。
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代金を支払うと、
販売機の中の人である店長が、手で商品を取り出し口に置いてくれる。
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世にも珍しい手動販売機を知るべく、
訪問時はブタメンとラムネを注文し、おいしく頂いた。
ただ、ブタメンはお金を払った赤い販売機ではなく、ハンバーガーの方の取り出し口から出て来たので、
思わず苦笑いしてしまった。
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購入したものは、河童の顔ハメ付近にあるイートインスペースで食べる事が可能。
今では広々としたこの土地は元々竹林で、店長と家族らが懸命に切り開いて、2012年に店をオープンしたそうだ。
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ハンバーガーは調理担当者(店長の息子さん)が不在だったので、
次はうどんでも食べようかと思ってよく見たら、実は麺類のレトロ自販機も手作りだった。
というか、どうやら従業員用出入口の扉のようである。
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端っこの方には、来店した子供達が使える遊具や、宿題が出来る机もあった。
また、以前使われていたであろう屋台的なものが廃墟化しているなど、若干漂う哀愁も含めて味わい深い。
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ところで、次々訪れる客にことごとくスルーされていたが、
店の斜向かい辺りの竹林には、何やら気になる鳥居が。
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見逃すには惜しい、パワースポットの「やっぺ神社」である。 どのくらいのご利益があるかは不明だが、少なくとも店長の元気の源となっているそうだ。
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デコボコで足元があまり良くないが、狭い参道の先には小さな祠がある。
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そして祠の内部には、まぼろし堂のマスコットキャラである河童「ヤッペ君」の像が鎮座しているのだ。
実は他界した店長のご主人がモチーフだという。
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“ヤッペ”は茨城で毎年行われる「牛久河童祭り」で、河童に扮した参加者が踊る際の掛け声が由来。
「や~っぺやっぺやっぺ」という語感の楽しげな感じも合っていたので、この名前を貰ったらしい。
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店長曰く、感染状況も徐々に落ち着いてきた為、そろそろ店内に客を入れる通常営業の再開を考えているとか。
苦肉の策で生まれた名物の手動販売機が、“まぼろし”の思い出と化してしまう日も、そう遠くないのかもしれない。
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