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ロシアは秘密主義のイメージが根強い国だが、あまり公で語られなかった“性”の話題に関しては、近年オープンになってきたようだ。
2011年に首都モスクワのクレムリン付近に開館した、欧州最大のセックスミュージアム「Gスポット」(※1)も、その兆候の一つかもしれない。
※1:セックスミュージアム=海外版の秘宝館。モスクワでは史上初の施設らしい。
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一応は政府の目から逃れるように地下に存在し、大通り沿いの雑居ビルの裏手に、ひっそりとその入口がある。
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階段を下りて敷地内に入ると、併設されたポルノショップやカフェの奥に、
古今東西のエロティック・アートが多数展示されている。
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「ソ連にセックスは無い」とまで言われた禁欲的風土とは思えない、破廉恥な空間が広がっているのだ。
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巨根オブジェや性具の他、異教の豊饒の神像、カーマスートラの絵画、
珍しいフランスのポルノ漫画、日本の江戸時代の春画、動物の交尾像、エロ・マトリョーシカ、性器チェスなど、
様々なものが約3000点並んでいる。
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阿吽の如く並ぶフルチンのプーチン大統領。
粛清されないか心配になる、実に尖った演出である。
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同館は、かつてプーチンに政界を追われた元市長のアレクサンダー・ドンスコイ氏が、自由の象徴にして若者の希望となる「大人のディズニーランド」を目指して造ったという。
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2006年、当時、ロシア北部の都市アルハンゲリスクの最年少市長であったドンスコイ氏は、
2008年の大統領選挙に立候補する意向を宣言。
するとプーチンに反対する危険因子として圧力が強まり、職権乱用などの罪で逮捕された。 |
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その後釈放されたものの、
政治の舞台から締め出された彼は、元々地元で風俗業を営み成功した事もあり、セックスミュージアムの建造を決意。 |
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こうして、大胆不敵にもクレムリンの目と鼻の先という挑発的な立地(氏はあくまで商業的な戦略を理由としているが)に、
沢山の男根がそそり立つ事になったという訳だ。弾丸ではなく男根で抗おうとはクールである。
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それはまるで、モスクワに性の解放をもたらすべく地下革命組織が秘密裏に企てた、ペレストロイカならぬ“エロストロイカ”のようでもある。
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もっとも、変態的オブジェの面白さはあるものの、日本の秘宝館で鍛えた人ならば、今更大きな衝撃を受ける内容ではないだろう。
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だが特筆すべきは、この隣の部屋に「デス・ミュージアム」(※2)があり、“性(生)と死”のセクションが並ぶ二律背反的構造だった事だ。
※2:2016年の訪問時は、ちょうど増設されたばかりの頃だった。
しかし、残念ながらその後逝ってしまったらしく、現在このセクションは別内容と化しているようだ。
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内部には、豊富なドクログッズや、奇妙な骸骨・ゾンビのインスタレーションが並んでおり、
微妙に“おそロシア”なお化け屋敷感が漂う。
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後半は、死者の生前を物語る様々な物を象った、“ガー族の棺桶”がミイラ付きで置かれている。
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ガー族は西アフリカ・ガーナ共和国の主要部族。 独特の死生観を持っており、
人が死ぬとオリジナルの棺桶を専門職人が作って、大々的に葬式を執り行う。
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棺桶のモチーフは、故人が好きだった物や、職業に関する物などが多い。
例えば、喫煙愛好家だった人物の遺体はタバコ型、漁業を営んでいた人物の遺体は魚型のものに入れられる。
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その仕上がりは、一見とても棺桶とは思えない芸術作品のようだ。
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しかし、まとまって展示されていると、
コント番組の道具置き場やレッドブルのボックスカートレースを彷彿とさせ、思わず笑ってしまいそうになる。
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順路は最終的にデッドエンド(行き止まり)。 客はやるせない気持ちで、元来た方へトボトボ引き返す事になる。
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余談だが、写真家のアラーキーこと荒木経惟氏は、エロス(性)とタナトス(死)は相反するものではなく、
濃密に絡み合う「エロトス」だと称して作品を世に送り出している。
その論法でいくと、この施設は間違いなくエロトスだった。
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