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[2014.02.02]

ジェヴォーダンの獣
~18世紀のフランスで殺戮を繰り広げた血に飢えた怪物ベート~



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1764年から1767年までの間、フランス中南部にあるジェヴォーダン地方(現在はロゼール県の一部)のマルジェリド山地周辺にて、俊敏に動く獣のような恐ろしい怪物が現れたと言われている。
そいつは牛くらいの大きさがあり、全身が毛に覆われた狼のような姿で、口から大きくはみ出た牙を持ち、 鋭い鉤爪とライオンのような尾を生やしていたという。


未解決ミステリーであるジェヴォーダンの獣を描いた18世紀の絵▲
ジェヴォーダンの獣(ベート)について警告している1765年のイメージ▲
足元に死体が転がっている割に妙に可愛いタッチで描かれており、このモンスターを殺した者に2700リーヴルの報奨金を与えるとされた。

「ベート(La Bete)」と呼ばれたその怪物は、1987年時点の研究によると、200~300回にも及ぶ襲撃を行ったと考えられ、実に113人(60~100人や120人以上とする説も)の村人を食い殺し、近隣の人々を恐怖に陥れた。
歩いている時は鈍重そうだが、走り出すとかなり速かったらしい。
初めてベートがジェヴォーダンに姿を現したのは、1764年の初夏の事だ。
6月1日に、ランゴーニュの森で若い女性が木々の間から突然現れたオオカミに似た怪物に襲われ、彼女の牡牛達が追い払ったという。
この事件を皮切りに、続いてヴィヴァレー地方のサン・テチエンヌ・ド・リュグダレス村の、ジャンヌ・ブーレという14歳の少女がいなくなり、翌日、村人によってその少女の食い殺された死体がレ・ウバックの村付近で発見された。
村にベートの噂が流れ始めた8月には、ピュイ・ローランの近くで、15歳の少年と少女が食い殺された。

1765年の襲撃の様子を描いた絵▲
獣はしばしば通常の捕食動物とは異なる獲物の頭部を狙った襲い方をしたらしく、犠牲者の頭部は砕かれるか食いちぎられ、ほとんどが体の柔らかい部分を食べられたという。
凶暴な獣に襲われ奮闘する少年達▲

やがて、ベートは新聞に取り上げられ、1765年1月12日には、ジャック・ポルトフェと友人6人の少年達が獣に襲撃されるも、なんとか団結して追い払った勇気を讃え、 時の王であるルイ15世が彼らに300リーヴルを与えた。
一方、事態を知ったルイ15世は、ベートを退治すべく、狩猟隊の竜騎士達を派遣した。
しかし、ただでさえ貧困生活なのに、村人達は畑仕事から招集され、ベート狩りに強制的に参加させられたという。
しかも、肝心の竜騎士達は贅沢に飲み食いした挙げ句、何の成果も上げず、とっととベルサイユへ帰還してしまった。
その後続として王宮付属の狩猟隊でオカミ狩り専門家ジャン=シャルル・ダンヌヴァルとその息子ジャン=フランソワの父子が派遣され、数ヶ月間に渡り8頭のブラッドハウンド犬と追跡を続けるも、これまた成果を上げられず帰還。

アントワーヌ父子は「シャズの獣」と呼ばれたオオカミを殺害した▲
その後は、3度目の正直とばかりに期待され、王の火縄銃運搬人で狩人の中尉フランソワ・アントワーヌ(アントワーヌ・ド・ボーテルヌとも)とその息子が派遣された。そして、9月20日に体長1.7m、体高80cm、体重60kgの巨大な灰色のオオカミを仕留め、彼らは「ベートを退治した」と公式に宣言したのだ。
その結果、アントワーヌ父子は英雄としてヴェルサイユに迎えられ、王宮の掲示した多額の褒賞金を手に入れたが、 実は偽の怪物を退治した詐欺行為だったとも言われている。

1765年9月21日、オオカミは剥製にされてヴェルサイユへ送られた▲

ベートは退治された事になり、事件は解決したと当時の新聞までも書きたてた。
しかし、12月2日、ムーシェ山の南東の斜面にあるオンテス・オーの部落で、7歳の少年がベートに食い殺されたのである。
この時、事件を目撃した14歳のジャック・ドゥニ少年によれば、ベートは背中に1本の縞が走り、脇腹には黒と焦げ茶の斑点があって、狼では無いと強く主張していたそうだ。

ベートの犠牲者は女性や子供ばかりで、特に少女がよく狙われたそうだが、反対に16歳以上の男性の死者はいなかったという▲
追い詰められたベート▲

その後もベートは多くの人々、特に女・子供を食い殺した。
これ以上犠牲者を出さない為に、ベートを殺すしか無いと、村人達は結束し、1767年6月19日の狩り出しには、漁師と勢子300人が参加したと言われている。
その日、地元の猟師ジャン・シャステルは、オーヴェールのソーニュに位置を構え、彼が座って聖書の聖マリアの連祷を読んでいると、ベートが彼の前に不意に姿を現したという。
不思議な事に、この時はベートは即座にシャステルに襲いかからず、彼の祈りが終わるまで待っているかの様だったという。
そしてシャステルは冷静に、本をたたみ、眼鏡をはずしてポケットにいれると、銃を肩にあて発砲した。
すると、鉛のマリア像から作った弾丸(または銀の銃弾)がベートに当たり、ついに人々を苦しめ続けた人食い獣を殺したのだ。

獣は同類の動物をもう1匹連れていたとか、子連れだったという目撃報告もある▲
18世紀に描かれたジェヴォーダンの獣の絵▲

しかし結局、ベートの正体が何であったのかは不明である。
もっぱら、単にデカくて凶暴な狼やハイエナが誇張されて伝わったという説から、狼の毛皮を被って、農家からお金を盗ろうとした者もいる事から、ベートは実は切り裂きジャックの様な殺人者や山賊といった人間だったのではという説や、新種の熊説、現地語でルー・ガルーと呼ばれる狼男説、魔法使いに召喚された魔物説、宇宙人説まで諸説あるが、事件背景が入り組んでおり、当時の記録も少ない事から、どうにも確信は得られない。
一説によれば、弾丸に撃たれ死亡したベートは、その後に解剖され、その結果は、狼と犬の混血種だったらしい。
当時のヨーロッパにおいて、凶悪な野獣=狼と言うのは、宗教戦争によって植え付けられた憎悪を晴らす為、濡れ衣を着せる格好の動物であった。
だが、狼は飢饉や疫病と言った稀なケース以外は、通常、人間を襲う事は無く、例えベートがこの稀なケースであったとしても、たった1匹の狼だろうが犬だろうが、長い間こんなに多くの人間を殺すのは不自然ではある。

ジェヴォーダンの獣から身を守る女性(乳首ポロリ)▲
ジェヴォーダンの獣については陰謀説も根強く、ベートを仕留めたジャン・シャステルこそが実は一連の襲撃事件の黒幕で、 彼が獣を訓練してジェヴォーダン周辺の人々を襲わせたのではないかとも考えられている。
と言うのも、シャステルの息子であるアントワーヌ・シャステルは変わった動物を数多く飼っていたらしく、 その中にはアフリカやアラビア半島に棲息するシマハイエナがいたとという。
シマハイエナはその名の通り、体全体に縞模様があり、これはベートの目撃報告にある背中の縞とも一致する。
動機は不明だが、このシャステル父子が協力してシマハイエナを連れ回し、人間を次々に血祭りにあげていたが、 騒ぎが大きくなるにつれてこれ以上の犯行は不可能と考え、仕方なくシマハイエナを撃ち殺した自作自演だった可能性があるというのだ。
ベートを射殺する際の聖書の祈りだの銀の銃弾だのといったくだりは、後世の人間によってそれっぽく脚色されたものに過ぎないとも思われるが、 仮に事実だったとしても、自分が飼い慣らした動物なら、いとも簡単に始末出来たと考えられる。

現地に建てられたジェヴォーダンの獣の彫像▲
また、解剖されたベートの死骸がその後どうなったか定かではないが、 1997年に、パリの国立自然史博物館でフランズ・ジュリアンという剥製師が、 「ジャン・シャステルによって撃たれた」とリストに記載のあるものと似た動物の剥製を発見したという。
その剥製は1766年から1819年まで展示されていたそうだが、明らかにアフリカのシマハイエナのものだったという。
どうやら18世紀当時の富裕層は、アフリカからハイエナなどを取り寄せていた事があったらしく、 オオカミは難しいが、ハイエナなら飼い慣らせば人を襲わせる事が可能であるそうだ。
さらに、ハイエナが人間を襲う際は最初に顔面部に噛みつくという特徴も、ベートの襲い方と一致する。

ジェヴォーダンの獣の正体は巨大な狼だったとする当時の絵▲

加えて、当時の現地の時代背景も影響していると考えられ、 元々この地方の人々はプロテスタントであったが、 フランス国王により強制的にカトリックに改宗させられたという経緯があるらしく、 カトリック教会としては住民の支持が必要であった。
そんな折、地元では人付き合いの悪い変わり者扱いであったシャステルが、 カトリック教会の祝福を受けた銀の銃弾によって獣を倒したという英雄譚は、住民にとっても少なからず カトリックに対しての印象を改めさせたのかもしれない。
その一方で、事件の真の黒幕はイギリスのプロテスタントであり、 ベートの活動範囲はほとんどカトリックの地域と一致している事から、 ユグノー(新教徒)と通じたシャステルがカトリック教徒を計画的に殺害していったのではないかとする説もあるそうだ。
もはやその真相は闇の中であるが、 いずれにせよ、18世紀のフランスの田舎で、3年間に渡り大量殺戮を起こした怪物が実在した事は事実である。


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