世界魔人列伝
いやいや〜、どうも皆さん、この世の怪異に迫る心霊探偵カウンセラーの早見淳二郎です。
ここではね、思わず背筋がゾクゾクってしちゃう様な、古今東西の謎多き人物達について語っていきますよ、ええ。時には、目を覆いたくなる事もあるかもしれませんがねえ・・・。
スウィーニー・トッド Sweeney Todd 〜フリート街の悪魔の理髪師〜
【いらっしゃいませ。そして、永遠にさようなら】
スウィーニー・トッドの物語の挿絵18世紀末の1795年、大英帝国の帝都ロンドンの中央に位置するフリート・ストリートは、行政や商業の中心にして、有数の観光地でもあったそうでしてね、旅行者は必ず足を向ける場所だったそうなんですね。
そんなここの186番地には、一軒の床屋が営業していた。
主人はスウィーニー・トッドってな、赤毛で青白い顔(まさに床屋カラー)の、いつも太い眉を寄せて不機嫌そうな表情をしている人物でしてね、店の窓には「Easy shaving for a penny.(お金と引き換えに気楽に剃れます)」ってな韻の良い覚えやすいフレーズの看板が掲げられ、店内の中央にはひとつの床屋椅子が設置してあり、手洗い用の水受け皿に、端の方には待機する為の客用のベンチ、ハサミとカミソリでいっぱいのラックがあり、誰に聞いても、小さな暗い場所と答える様な感じだったそうなんですよ。
(2階はスウィーニーの住居で、地下室もあった)
実はこの床屋、恐ろしい場所でしてね、客が椅子に腰掛けた後、スウィーニーがレバーを引くと、バラエティー番組よろしく椅子がガタンと後ろに傾いて、頭から地下室に落ちてしまうってな仕掛けが施してあり、これを使ってスウィーニーは、事もあろうに、次々と客を殺していったそうなんですよ。
犠牲者の大体は落ちた衝撃で首を折って死んでしまうんですがね、たまに死に切れない事もあり、そんな場合はすぐにスウィーニーが、丹念に研いだカミソリで喉をかき切って息絶えさせるんだなあ。
でもって、客の遺体から金目の物を奪った後、遺体は四肢を解体され皮膚を取り除かれ、地下道を通じて、通りを挟んだ向かい側にあるミートパイ屋「ベル・ヤード・ベーカリー」を営む未亡人のラヴェット夫人(名前はマージョリーかサラだが定かではない)に引き渡され、刻まれ焼かれ、人肉パイとして販売され、多くの人々に振舞われるんですよ、ええ。
しかも、これが何故だか結構美味いと評判だったそうなんですねえ。

【実在説】
幾度も舞台・映画化がなされており、2008年1月19日からは、ティム・バートン監督によるジョニー・デップ主演の映画がロードショーされる以上が、後年幾度もミュージカルや映画の題材になっている連続殺人鬼スウィーニー・トッドの物語の概要です。
もともとこの話は、『みんなの雑誌、家族の図書館』なる定期刊行誌に1846年11月21日から18回連載された『真珠の首飾り(THE STRING OF PEARLS)』(トーマス・プレスト著)っていう犯罪小説に出てきたものでしてね、翌年に『フリート・ストリートの悪魔の床屋(THE DEMON BARBAR OF FLEET STREET)』のタイトルで舞台として上演されて評判になり、話しが広く伝わっていくうちに、いつの間にか実際にあった話として都市伝説化したみたいなんですねえ。
英国ではスウィーニー・トッドはお化けの様な扱いだそうで、手に負えない若者などには、無作法に振る舞うとスウィーニーに攻撃されるから用心せよってな具合に、食卓にミートパイが出され警告がなされたりしたそうなんだ。
スウィーニー・トッドは、しばしば実在の人物であったと語られる事があり、恐怖と犯罪を扱う小説作家ピーター・ヘイニングも、1993年に発表した著書で同説を主張しているんですがね、彼以外の研究者はその実在の証拠を発見出来ていない(へイニングも信頼に足る証拠は掲示していない)みたいなんですね。
ですが、ロンドン西部のニューゲイト刑務所の1802年1月29日の日誌に、トッドという名の気が狂った床屋の経歴が詳しく記述されていたとの情報もあり、モデルになった人物が実在したのではないかとも云われているんですよ。
また、スウィーニーの事を小説で記したトーマス・プレストは、作品に実際の犯罪記録からインスピレーションを得る事が結構あり、少しの真実に基づいて独自のホラー色を出す傾向だった事からも裏付けられるんですね。

【悪魔の誕生と最期】
ラヴェット夫人 さらに、ヘイニングの調査によれば、スウィーニーは結婚してはいないものの、ふしだらな女性と同棲していたという事を示す記録があったらしいんですよ。
それは彼の最初の殺人の記録でもあり、ある日の午後、酔った騎士がヒゲ剃りにスウィーニーの店に訪れた際、どうやらスウィーニーの恋人の女性を好いてしまったってな事を告げたそうでしてね、したら、それに憤慨したスウィーニーは、この時初めて、武器として己の手のカミソリを使い、その騎士の喉をかき切って殺しちゃったみたいなんですね。
そんなこんなで、スウィーニーは多くの人々を血祭りにあげていった訳なんですがね、しかし、次第に周囲では、彼の店に入った客が、その後二度と姿を見せなくなるってな噂が囁かれる様になり、とうとうスウィーニーとラヴェット夫人の世にも恐ろしい悪行はバレてしまう事になる。
物語によれば、そのきっかけは、ある時、スウィーニーの床屋に隣接する聖ダンストン教会の礼拝堂で、思わずハンカチで鼻を覆ってしまう程の悪臭が漂ってくる様になったそうで、それは数ヶ月に渡って続き、疾病は蔓延る事を心配した関係者は、ロンドンの衛生局や警察に連絡を取って、調査を行うも原因は不明だったんですね。
実はその悪臭ってのは、スウィーニーお気に入りの死体の残骸の捨て場であった、聖ダンストン教会の地下墓所からの腐敗臭でしてね、当然その墓所(ついでに近くを通る下水道など)も調べられたそうなんですが、まあ、何百年も前に作られた地下墓所に死体がゴロゴロあるのは当然の事なので、悪臭がいっそう強かったとはいえ、俄かにそうだとは気づかれなかったんですね。
しかし一方同じ頃、巷ではスウィーニーの店に行った数人の水夫が行方不明になったってな噂がゴシップの舌を回らせ始めており、教会の不可解な悪臭とリンクさせないまでも、この事に注目した警察が、スウィーニーの過去を洗った結果、彼が以前、一対の銀の靴のバックルの窃盗容疑で訴えられた事が判明したそうなんですよ。
その盗まれたバックルは、かなり一般的なタイプだったので、訴訟は効力がなかったそうなんですがね、しかし、スウィーニーを告発した女性は、不思議な事にある日突然姿を消した彼女の夫のものと、明らかに同じバックルをスウィーニーが自身の靴につけていたと頑なに主張したそうなんだ。
火の無いところに煙は立たないって事で、疑いを強めた警察はスウィーニーの店を厳重な監視下に置き、以降数ヶ月に渡って張り込みを行った結果、ある男性客が店に入ったっきり、その後二度と姿を見せなくなったってな事があったそうなんだ。
警察のチーフである推理力抜群なリチャード・ブラント卿は、スウィーニーが客を殺害している事を確信し、より多くの証拠を探すべく、再び教会の地下墓所へ訪れたところ、ついに、悪臭の源である死体の残骸(骨や肉片)が積み重ねられている場所を発見し、さらには、ラヴェット夫人の店の裏まで続く血の足跡を見つけたそうなんですよ、ええ。
これだけでも十分決定的な証拠である気がしますがね、スウィーニーを殺人容疑で逮捕するにはまだ足りず、より慎重に動くべきだと考えたリチャード卿は、仕方なく、とりあえず、スウィーニーの店に入る全ての客に部下を同行させる緊急措置を取ったんですね。
しかし、思いのほか、その後の展開は早かった。
地下墓所での発見の2日後、捜査員は隙をついてスウィーニーの住居である建物の2階を捜索する機会に恵まれ、明らかに略奪品と思われる、失踪した人物の名前やイニシャルの入った実に160人分にも及び衣類や宝石を発見したんだなあ。
処刑台に連れられるスウィーニー・トッドこの報告を受け、もはやこれ以上時間を費やす事は出来ないと悟ったリチャード卿は、部下を2チームに編成し、スウィーニー及び、同時に捜査を進めていたラヴェット夫人の逮捕にとうとう踏み切った。
この時、ラヴェット夫人の逮捕の際、警官が彼女の店に駆けつけてきたところ、店内には数人の客がいたそうなんですがね、ラヴェット夫人が販売していた人肉パイの事が明らかになるや、激昂した彼らは暴徒と化し、彼女をリンチし、ズタボロにしちゃったらしいですよ。
ところが、かたや殺人を行ったスウィーニーの方はというと、警官がやってきた時には店に1人ポツンといたそうでしてね、ラヴェット夫人とは相反して、人知れず連行されたみたいなんだ。
その後、逮捕されたラヴェット夫人は検察官に、自分とスウィーニーの犯行を洗いざらい白状した後、1801年12月に、ニューゲート刑務所の獄中で隠し持っていた毒薬で服毒自殺しちゃったそうでしてね、一方そんな事実は一切知らされないスウィーニーは、オールドベイリーで裁判にかけられて絞首刑を言い渡され、1802年1月25日にニューゲート刑務所庭にて、何千もの群衆の前で処刑されたそうです。
(※繰り返しますが、これらの記述は事実に基づいている可能性はあるとはいえ、あくまで物語上の話です)

なお、この英国の古典的な都市伝説は、聖ニコラウスの伝説中のあるエピソードから端を発している(恐らく11世紀頃に発展した)のではないかとも考えられているそうでしてね。
それは、ある夜、3人の店員が宿を求めて彷徨い、ようやく迎え入れられたんですがね、泊めてくれた家の主人が彼らをついつい殺しちゃうんですよ。
でもってね、その彼の妻のアドバイスに従い、店員らの死体を焼いてミートパイにして処分する事になるんだ、これが。まあ結局、聖人によって生き返させられるってな話だそうですがね。

[2007/11/17 03:00]



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